蝶を撮る風流な蝶狂人
- 写真集づくりを夢見る“2月編” -
 「俳句の基礎」というネット記事を一読、ずいぶん俳句から遠ざかっていることに気づきました。通算で56句、とりあえず筆を置き、基本中の基本形である「名詞/○○○・×××/○名詞」を念頭に推敲します。
【平成28年2月1日→17日/24日】蝶の図鑑(No.001);ヒメギフチョウ No.017
堅香子に俤偲ぶ郷の風
かたかご おもかげしのぶ さとのかぜ
カタクリや段だら纏う郷の蝶(初案)→姫ギフやカタクリ揺らす春の風(改案)→片栗や母親みゆる郷の花(成案)
 故郷の里山へヒメギフチョウの撮影に行った。ヒメギフが揺らすカタクリの花は、沢筋を吹き降ろす肌寒い春風を避け乳飲み子をあやす母親に見えた。遅れ馳せながら「姫ギフが牽くや彼岸の墓参り」両親も喜んでくれたかな・・・・?
 ヒメギフチョウは、ウマノスズクサ科のウスバサイシンを食草とし、4月上旬から5月初めに里山から山地の落葉樹林やカラマツ林等で発生する。環境省・長野県ともに「準絶滅危惧」に指定している。
 
 文中の「ヒメギフや牽くは彼岸の墓参り」は季語重なり「彼岸/春」「墓参り/秋」になっていますが「彼岸の墓参り」で「春」と認識して頂けるかと思います。
 
【平成28年2月1日→17日/24日】蝶の図鑑(No.002);ウスバシロチョウ No.018
旅人や春風に乗り叩く窓
たびびと はるかぜにのり たたくまど
春風やウスバ運ぶか四季の庭(初案)→春風やウスバ飛び交う四季の庭(改案)→そよ風やウスバ飛び交う石鹸玉(成案)
 居間の南側の窓を蝶が度々たたく(何故かぶつかる)、私には「おっちゃん、今日は~、出てお出でよ」と聞こえ、カメラを手にバタフライガーデンに飛び出す。そんな時(何時も訪花している)決まって撮りたい蝶が来ている。
 ウスバシロチョウは、ケシ科のムラサキケマンを食草とし、5月上旬~末に発生する。ウスバシロチョウと言うからシロチョウ科の蝶かと思うがアゲハチョウの仲間だ。
 
 「ヒメギフチョウ」の句で、過ちを理解し半日以上かけ推敲したこともあり、本句では右往左往することなく納得域に到達した。「旅人や・・・・叩く窓」を、「・・・・窓叩く」あるいは「・・・・やってくる」したくなる。(散文調?)
 
【平成28年2月1日→24日】蝶の図鑑(No.003);ジャコウアゲハ No.019
浮世絵や麝香で消する朧月
うきよえ ジャコウでけする おぼろづき
浮世絵や麝香漂う花苺(初案)花冷えや麝香漂う奥座敷(改案)→美人画や麝香を隠す春霞(成案)
 ジャコウアゲハは、細身で尾が長く黒留袖の和服姿、近づくと麝香り香気が漂う。その妖艶な姿から、浮世絵画家「喜多川歌麿の寛政三美人画」を思い起させる。
 ジャコウアゲハは、麝香の香気を出すことから名付けられた。有毒成分のあるウマノスズクサを食草とするため、毒のある蝶として鳥などに襲われることが少ない。春型(5月上旬~6月上旬)と夏型(7月上旬~8月)の2化性。
 
 「蝶に俳句を添える」(蝶の特徴・生活史に着目した作句)と考えていたが、「俳句の基礎」の上辺を舐めた程度であったが、まさに「目から鱗が落ちる」とはこの事か!・・・・堅苦しいという第一印象が吹っ飛び以前より楽しくなった。とは言え、壁一つ越えれば二つ目の壁がそこにある。ハードル競争みたいな話だ。
 
【平成28年2月2日→17日/24日】蝶の図鑑(No.004);キアゲハ No.020
手の内や奴すがたで透百合 
てのうち やっこすがたで すかしゆり
七草や芹は食べずに蝶の餌さ(初案)→七草やお粥の前に蝶の餌さ(改案)→蝶の餌や七草粥に苦笑い(成案)
 蝶は小花を穂状もしくは手まり状に付ける山野草を好む。園芸種は人の手で交配し、より美しい花を咲かそうと改良される。その生活史を、蝶や蜂は一瞬にして読み取ってしまう。時には、こんな百合の花にも訪花する。
 キアゲハは、年2~3回発生する多化性、海岸から山岳まで垂直分布の広い蝶と知られ。アゲハチョウの中でも最も普通に見られるが、華やかでバタフライガーデンには必要不可欠の蝶の一つだ。
 
 アゲハチョウはユリの花も好む。ヤマユリやオニユリに訪花するカラスアゲハを多く見掛ける。蝶の訪花シーンを撮影すべくユリ畑も作ってみた。ダリアに黒蝶・白蝶、本物の蝶は訪花かな・・・・ぽんぽん咲きダリアセットを発注した。
 ここまでの、4句2ページを省みると「とり合」に改善すべきところがあると気づく。「改案」は「物仕立て」(一句一章・一物仕立て)擬きであったが、「初句切れ」「中間切れ」擬きにしたが、「とり合」(二句一章・配合・ニ物衝撃)を理解し[印象のいい句」へと推敲を図りたい。少なくとも自己検証の段階で「擬き」は取り除きたい。
 
【平成28年2月2日→18日/24日】蝶の図鑑(No.005);アゲハ No.021
夏蝶や両成敗とご神木
なつちょうりょうせいばいと ごしんぼく
場違いや挵蹴散す揚羽蝶(初案)→そこどけや揚羽に挑む挵蝶 & 仲裁や挵と揚羽物別れ(改案)
瞬風や挵も揚羽払い除け(成案)
 バタフライブッシュの別名を持つ「ブッドレア」(藤房空木)の花言葉は「魅力・あなたを慕う・私を忘れないで・恋の予感」等々。小さなセセリを追い払ってまでも大きなアゲハが寄ってくる。バタフライガーデンでのブッドレアの位置付けは「ご神木」である。
 アゲハは、キアゲハ(野菜系)と異なりカラタチやサンショウと言ったミカン科を食樹とし、平地から低山地また民家周辺でも普通に発生する。年2~3回発生する多化性。
 
 ブッドレア(藤房空木)で吸蜜するアオバセセリを追い払い、その場を分捕ったアゲハ、非常に珍しいシーンなので、蝶の営みを初案~成案で表現してみた。この辺りだと、もう少し練って「川柳」(擬人法を介して人事を対象)にしたら良いかも知れない。あるいは、ケース・バイ・ケースで俳句と川柳の2本立てにするという手もありそうだ。(二兎追うもの一兎得ず)
 
【平成28年2月2日→18日/24日】蝶の図鑑(No.006);クロアゲハ No.022
堪らぬや木陰ですゞむ黒揚羽
たまらぬ こかげですずむ クロアゲハ
隠家やピント合わぬは木下闇(初案)→カメラ持ち木陰で待つや黒揚羽(改案)→隠家や気遣い要らぬ木下闇(成案)
 夏の暑い日、涼を求めて入った木陰で出逢うことの多いクロアゲハ、黒っぽい蝶は太陽熱を吸収しやすいため他の蝶以上に体温調整が必要で木陰等で昼寝する。私も昼寝明け一番に撮影した蝶の一つだ。
 クロアゲハは、東信地方では少ないアゲハチョウの一つ。カラタチ等のミカン科を食樹とする。春型(4~5月)、夏型(7~9月)を主に2~3回発生すると推定される。樹木が茂るやや薄暗い環境を好み林間の比較的高所を飛翔して花に訪れる。
 
 「夏の蝶」の中でも、アゲハチョウが多く飛ぶので「揚羽蝶」、特に「黒揚羽・烏揚羽・烏蝶・鳳蝶(あげは)」も夏の「季語」とされている。蝶ファン、ましてや「蝶狂人」にとって季語が増えるのは嬉しいかぎりだ。一方、説明句調からなかなか抜け切れないという辛さも増す。まだまだ、型にはめ込もうとする意識が強く、客観的にみても進歩の度合いは感じられない。焦らずに、数を熟すことで角がとれたらと思う。
 
【平成28年2月3日→19日/24日】蝶の図鑑(No.007);オナガアゲハ No.023
打水や端折る姿は黒奴
うちみず はしょるすがたは くろやっこ
夕凪や揚らぬ凧を牽くわらべ(初案)→夕凪や揚らぬ凧に親心(成案)→代掻くや端折る姿に父の影(弐案)
 林縁から浸み出る水が農道を湿らせている。晴れ上がった暑い日に吸水飛翔するオナガアゲハに出逢った。こんなチャンスは滅多にない、辺り構わず腹這い態勢で「黒凧姿の蝶」を撮影した。
 春型(4~5月)、夏型(7~8月)の2回発生する。樹林が茂る渓流や林縁を比較的ゆるやかに飛翔し、各種の花を訪れる。本種に限らず黒色系のアゲハチョウ(♂)は蝶道を形成し、水溜りでの吸水活動を盛んに行う。
 
 千曲川から標高差130mある沢筋を、上下飛翔する姿をしばしば目撃している。バタブライガーデンではブッドレアや三尺バーベナに訪花する。残念なことに、数多く撮影しているのに損傷個体ばかりだ。アゲハチョウの夏型が発生する初夏のバタフライガーデンの再構築を図る必要がある。林道や登山道で見掛た環境を取り入れた一次・二次水飲場づくりも不成功だった。春先に着工を予定している三次計画に期待をかけたい。
 
【平成28年2月3日→19日/24日】蝶の図鑑(No.008);カラスアゲハ No.024
桟や汝渡るか花野道
かけはし なんじわたるか はなのみち
夏蝶や表裏映すは水溜り(壱案)→旅人や虹の桟わたる蝶(弐案)
 真っ黒ないでたち、そのうえ全身メタリック仕立て。木立の中をぬうように高速飛翔で飛び去るも、オスは蝶道(ちょうどう)をつくり同じ所を飛翔する。雨上がりに水溜り周辺で見掛けたら、じっと撮影チャンスの到来を待つ、虹のように光る翅のカラスアゲハが水溜りに写る。(夢かな)
 カラスアゲハは、キハダ等のミカン科を食樹とし、山麓部平地から山地の渓谷や樹林帯林縁で見られる。春型(5~6月)と夏型(7~8月)の2化性。比較的敏速に飛翔し訪花する。
 
 ログハウスの完成当時、庭には残土が小高く積まれていた。雨上がりの水溜りにカラスアゲハが水飲みに訪れた。翌年以降、庭は高麗芝で覆われ水溜りは無くなった。代わりに農道に山土を敷き詰め水飲場を造った。所詮人工もの、小画像の景色を見ることはない。話は変わるが、2年ほど前にカラタチを植えたくネット業者とコンタクトをとったことがある。子供の頃、実家の裏庭がカラタチの垣根で囲まれ何頭ものカラスアゲハがきていたことを記憶している。
 
【平成28年2月3日/24日】蝶の図鑑(No.009);アオスジアゲハ No.025
西風や汝も渡る秋の風
にしかぜなんじもわたる あきのかぜ
青筋や浅葱の連れの旅の蝶(初案)→旅人や浅葱の連れか碧い蝶(改案)旅人や青も浅葱も藤袴(成案)
 アサギマダラの“渡り”に混じり、フジバカマを植えてから一年おきに訪花する暖地性の迷蝶(国内)、これも温暖化が影響してのことだろうか。感動ながらも複雑な思いだ。
   長野県では、最近になり南端地域で越冬定着が確認されているが、中信・東北信では偶発的個体として稀に観察されている。
 近隣では偶発性個体として、アゲハチョウ科のモンキアゲハが目撃されている。
 
 バタフライガーデンを造ろうと決心した元来の理由は、年老いて歩くことも辛くなっても蝶の撮影を続けたい。その願望を実現するには何をしたらいいか。その結論は、蝶に遊びに来てもらうことであった。そんな願望を早々に現実のものにしてくれたのがアオスジアゲハ(欲いえば、モンキアゲハやムラサキシジミ、オオヒカゲやクロヒカゲモドキ、ヒメシロチョウ・アサマシジミ・エルタテハ等)だ。蝶が棲みやすい環境を追求し構築した私への自然から、蝶の世界からのプレゼントと思い有難く楽しんでいる。
 
【平成28年2月4日→19日/24日】蝶の図鑑(No.010);キタキチョウ(旧名;キチョウ) No.026
お疲れや三季の蝶も冬支度
おつかれ さんきのちょうも ふゆじたく
西風や蝶連れ去るか四季の庭(初案)→哀しさや残花に集う秋の蝶(改案)常連や三季の蝶も冬支度(成案)
 萩の花が散る晩秋、蝶の姿もめっきりと減る。黄色と目立つ色の蝶が多く飛んでいる。晩秋近くに発生し数が増えるということはない。他の蝶が激減するなかで長寿蝶が目立ち始めるのだ。
 キタキチョウはかつてキチョウと呼ばれていたが、近年になり、名称変更をした。
 年3回の多化性、4月~10月まで普通に見られる。マメ科の植物を食草とする。
 
 
 萩の花が散る晩秋、蝶の姿もめっきりと減る。黄色と目立つ色の蝶が多く飛んでいる。晩秋近くに発生し数が増えるということはない。他の蝶が激減するなかで長寿蝶が目立ち始める。もし、蝶と話が出来たら何と言うか聞いてみたい。「我らこそ蝶なるぞ!」と言うに違いないと思う。「平凡なことを毎日平凡な気持ちで実行することがすなわち非凡なのである」(アンドレ・ジイド)ことを教えてくれる。
 
【平成28年2月4日→20日/24日】蝶の図鑑(No.011);ヤマキチョウ No.027
過疎の地や出逢い逃すか待ち惚け
かそのち であいのがすか まちぼうけ
若夏や出逢いも稀なヤマキチョウ(初案)→絶え行くや昔懐かしヤマキチョウ(成案)
 環境省・長野県ともに絶滅危惧Ⅰ類に指定。俗にいう「珍蝶」で、付近での目撃情報もあり探索、当地に住み4年目の5月、林縁の日溜りにいる越冬個体を発見した。越冬環境が良く傷みが少ない蝶だった。
   山間の渓谷部や疎林・草原で、クロウメモドキ科のクロツバラを食草とし、年1回7月下旬頃から発生し夏眠後、秋に活動。蝶で越冬し翌年6月頃まで見られる。
 
 越冬明け、オスはメスを探して疾走する。個体数が少なく早く相手を探さないと交尾期を逃す。そのため原野を素早く翔び廻る。活動範囲も広そうなので、越冬体の撮影場所から推測することになる。運よくほぼ半分は河岸段丘の崖になっている。探索時期は蝶も疎らになる8月上旬から仲秋になろう。当台地で復活して欲しいトップが本種、続いてアサマシジミとヒメシロチョウだ。
 
【平成28年2月4日→20日/28日】蝶の図鑑(No.012);スジボソヤマキチョウ No.028
旅人や桟敷ゆずるか花野道
たびびと さじきゆずるか はなのみち
打水や心なごます蝶の技(初案)→名月や昼は黄蝶の眺め椅子(改案)→秋風や花穂を揺らし招く蝶(成案)
旅人や挨拶かわす花野道(推敲)
 打水の効果は一時のもの、そこに集まる清楚な装いのスジボソヤマキチョウは心の奥底まで和やかにしてくれる。打水が創り出す土埃の紋様もしかり、じっと観察してみることこそ真のゆとりをもたらせてくれる。
 スジボソヤマキチョウは、クロツバラ等のクロウメモドキ科を食樹とし、6月下旬から発生する1化性のモンキチョウ亜科の蝶。緩やかに飛翔して訪花、渓谷や林道上で集団吸水をする。  
 
 初夏に発生、盛夏は一時的に越夏(夏眠)し、秋の活発後は蝶で越冬する。翌年4月頃から活動を再開し産卵、5月頃まで見られる長寿の蝶(同一個体)として知られる。湿った地面で集団吸水する姿を多く見掛ける。撮影の気配を感じると睨めっこの態勢を撮りなかなか真横から撮れない。アサギマダラの渡りが始まる頃、フジバカマの周りに2桁超えのスジボソヤマキチョウが訪花する。この中に一つぐらいは混じっていないかとヤマキチョウを探す。疑わしい個体もいるが断定に至っていない。
【平成28年2月4日→20日/26日】立春 No.029
春暁や窓の部分が薄あかり
しゅんぎょう まどのぶぶんが うすあかり
朧月照らすや廊下薄あかり(壱案)→春立ちて行くや野山の足慣らし(弐案)→春泥や何処から余所着靴えらび(参案)
 年を取ると何事においてもおっくうになる。立春の時期は、更に「おっくう」さに根が生え血糖値も気になる。当地は、古くから「粘土地ゆえ離婚率も低い」と言われるほど「粘っこい」土地だ。
   「春の妖精」の便りは地域によっては近々であろう。かつて、宮城でモンシロチョウの舞いを2月25日に見ていた。
 当地でも、暖冬が続けば今月末にも現れるかも知れない。
 
 野暮用序でに立ち寄った海野宿横の千曲川河川敷で2月19日にモンキチョウを初見した。台地は140~150mも高く、バタフライガーデンは野菜畑に隣接しているので毎年のようにモンシロチョウが先行する。今後、大雪や大寒波が来なければ蝶シーズンの幕開けも早まるだろう。(モンシロチョウの初見日は、'12.3.16/'13.3.8/'14.3.9/'15.3.28であった)
【平成28年2月5日→20日/26日】蝶の図鑑(No.013);モンキチョウ No.030
透絵や蝶の彼方は薄あかり
すかしえ ちょうのかなたは うすあかり
求愛や上に下へと紋黄蝶(初案)→夏蝶や紋で占う裏表(成案)
 真夏は端境期、見掛ける蝶の姿は悲しいほど少ない。夏眠前に産卵を済まそうと、「バタフライガーデン」は「恋する庭」になり、至るところで求愛飛翔を見掛ける。ワンフレームにオス・メスを捕えるチャンス、この時期は家を離れられないハイ・シーズン。
 モンキチョウは、年に3~5回発生する多化性のシロチョウ科モンキチョウ亜科の何処でも見掛ける蝶。マメ科の植物を食草とし、広い環境で発生し普通に見られる。オスは黄色型、メスは黄色・白色型がいる。  
 
 「初蝶来何色と問ふ黄と答ふ」(はつちょうく なにいろとう きとこたう)/「もつれつゝ蝶どこまでも上り行く」(もつれつつ ちょうどこまでも あがりゆく)/「初蝶は二十日餘りも前になりし」(はつちょうは はつかあまりも まえなりし)/「蝶飛びて其あとに曳く老の杖」(ちょうとびて そのあとにひく おいのつえ)等、私が生まれる前年に小諸(沢向うの町に疎開されていました。記念館があるので行ってみようと思う。)で詠まれた高浜虚子(72歳)の句です。
 
【平成28年2月5日→20日/26日】蝶の図鑑(No.014);ツマキチョウ No.031
白蝶や開翅の褄にいずる月
しろちょう かいしのつまに いずるつき
遮るや止まらぬ蝶に捕虫網(廃案)→華奢な蝶何故止まらぬやむかっ腹(改案)そよ風や蝶を足止め目先花(成案)
 林縁の林道や、山地の農道に沿い、何かを監視するかのごとく行き来する。華奢に見える蝶だが、何故か長く飛び続けられ感心する。春風に煽られ物陰探して(望はカメラ構える目先の花)舞い降りる。
   ツマキチョウはハタザオ・イヌガラシ等アブラナ科の花や若い実を食し、4~5月に発生するシロチョウ亜科の蝶。前翅のイカリ肩や翅裏の淡い大理石模様(マーブル)が特徴で雄のみ黄色の紋を持つ。
 
 環境変化に敏感で、本種が棲息する所は環境破壊も少ないことを暗示している。農道に野草のムラサキケマンを移植し群落を形成させれば、今まで以上に訪花すると思われる。フジバカマとコマツナギの群落を作ったので、用地もあるようでないものだ。これとは別に、農道奥の市道側の法面に、路肩の強固策と兼ねカシワの若木を数本植えたいと考えている。勿論、ゼフィルスの呼び寄せ策だ。
 
【平成28年2月5日→20日/26日】蝶の図鑑(No.015);モンシロチョウ No.032
そよ風や蝶も踊るは芝の上
そよかぜ ちょうもおどるは しばのうえ
庭の芝ワルツ踊るや紋白蝶(初案)→春風に踊る紋白見合い哉(改案)→春風や紋白運ぶ親心(成案)
 冬枯れした芝生も若草色に変りつつある。モンシロチョウの番いを、春風がそっと掬い上げるように包み地面すれすれに運んできた。よほど気に入ってくれたのか芝生から出ることなく舞い続けた。
 アブラナ科の栽培種や野生種を食草とし、年4~5回、4~10月、最も身近で見られる蝶。蝶に興味のない人でも、本種を知らない人はいないだろう。  
 
 「春の妖精」として名高いヒメギフチョウとは別に、春を告げる蝶はモンシロチョウとモンキチョウだと思う。この2種に続く新生蝶は半月近く後になる。ところで、ラベンダーは根付きが悪く毎年植えている。当地は、日照時間も長く雨が少ないので環境的には良いと思う。また、芝生で舞うこともなくなった。撮影時は芝の肥料を撒いた直後、強過ぎたのか高麗芝が枯れたので以降の追肥は止めている。
 
【平成28年2月6日→21日/26日】蝶の図鑑(No.016);ヤマトスジグロシロチョウ No.033
短夜に蝦夷や大和と語る友
みじかよに エゾヤマトと かたるとも
蝦夷スジグロその名改め大和なり(初案)→その呼な蝦夷や大和や可笑しかな(改案)→黒筋の細い太いが見分けかな(成案)
短夜にエゾやヤマトと語る友短夜に蝦夷や大和と酌み交わし(推敲)
 エゾスジグロシロチョウから暖簾分けしたヤマトスジグロシロチョウ、その見分けは難しいが他の類似種の判別より容易だ。何故なら、エゾスジグロシロチョウは北海道のみ、本州以西はヤマトスジグロシロチョウと名称変更。
   かつてエゾスジグロシロチョウと称されていた蝶。近年、ヤマトスジグロシロチョウと名称変更された。山地から高山にかけての渓流沿いに生息。アブラナ科のヤマハタザオ等を食草とし、4から10月の間に数回発生するとみられている。
 
 話は若干それるも蝶種に関係するので書き留めておきたい。蝦夷地を北海道、琉球を沖縄と呼ぶようになったのは明治維新以降のこと。更に大和朝廷の時代まで遡ると、中部以東、北陸・関東・奥羽に住む人々は蝦夷という名で異民族(人類学的な決めてはない)扱いをされていた。天気予報などで地域を示す言葉として、「表日本・裏日本」という言葉が普通に使われてきた。近年になって、好ましい表現でないとのことで改められた。エゾスジグロシロチョウが2種に分かれたのは2001年、何故「エゾ・ヤマト」と名付けたのだろうか・・・・。
 
【平成28年2月6日→21日/26日】蝶の図鑑(No.017);スジグロシロチョウ No.034
白粉や隠すも消えぬ蝶の筋
おしろい かくすもきえぬ ちょうのすじ
筋黒やバニラ香りの白い蝶(壱案)→筋黒は白蝶描く下絵かな(弐案)
 人里近い雑木林周辺から河原、渓谷の川原と広く生息し、近づくとバニラのような甘く優しい匂いがする。その特徴を生かし、バニラ香(白粉)と季語になる九輪草(花言葉/幸福を重ねる/証)を筋黒白蝶への掛け合いで詠んでみた。
 スジグロシロチョウはアブラナ科の植物を食草とするが、モンシロチョウの栽培系とは対照的に野生系を好む。年2~3回の発生で4月~10月頃まで見られる。  
 
 モンシロチョウのデッサンで、白い翅の立体感を表そうと力が入り過ぎて筋だらけの蝶になってしまった。蝶に詳しい先生だから「上手に描けたね、そのスジグロシロチョウ(筋黒白蝶)」と褒められ考え込んでしまった。これも捨てがたいが、年相応の内容に改めてみました。だいぶ難解な句(無理な付合、説明調に起因するのかな)になったので不要な能書きを付してしまいました。
【平成28年2月6日→21日/26日】蝶の図鑑(No.018);ウラギンシジミ No.035
秋されや我を案じる猫と蝶
さびしげ われをあんじる ねことちょう
秋蝶や尾で振り払う眠り猫(初案)猫に蝶我が膝上で昼寝顔(改案)
 毎年、8月も終えようとする頃、テラスの手すりで翅を広げ休むウラギンシジミを見掛ける。今年撮影出来る蝶も残すところ数種、心の中に秋風が吹き込み寂しげにする我を猫や蝶が慰めてくれる。
   クズ等のマメ科の蕾や花、若い果実を食し、春型は非常に少なく夏型が8月頃より発生。腐敗果実・動物の死骸・糞等に集まり、訪花・吸蜜はしない。暖地性の蝶で温暖化の影響で見られるようになった。
 
 蝶の季語で書き残したことがある。蝶についての春の季語、その子季語として「蝶々・胡蝶・蝶生る・春の蝶・眠る蝶・狂う蝶・小灰蝶(シジミチョウ)・胡蝶の夢・岐阜蝶・双蝶・緋蝶・だんだら蝶」(一部重複)。
【平成28年2月7日→21日/26日】ゼフィルスの仲間(蝶の図鑑) No.036
アネモイやギリシャ神話へ誘う蝶
アネモイ ギリシャしんわへ さそうちょう
ゼフィルスや微風運ぶ初夏の蝶(初案)アネモイやゼフィルス運ぶあいの風(改案)
 アネモイは、ギリシャ神話の「風の神たち」である。東西南北の各方向を司り、各々が様々な季節・天候に関連付られていた。集合写真の13種のシジミチョウは「ゼフィルス」(西風)と呼ばれ親しまれている。ギリシャ神話・ローマ神話の世界に俳句があったら「アネモイ」は多くの句に登場したであろう。季語 or アネモイ(初夏の限定季語)で扱う。
 分類学のレベルが低かった時代、樹上性のシジミチョウの仲間を総括してゼフィルス(Zephyrus)と呼んでいたのが始まり、語源はギリシャ神話の西風の神ゼビュロス。(西風=ラテン語でゼフィルスとも)
 煌めく華麗な翅を持つことで多くのファンを持つ。日本に生息するゼフィルスは25種、うち13種を観察した。残す1種を何とか撮りたい。
 蝶には、難解な「学名」が付いています。1758年にスウェーデンの生物学者リンネによって提案されたもので、何故かラテン語あるいはギリシャ語が使われています。
 
 
 アネモイの父アストライオスは星空の神、母エーオースは暁の女神。アネモイには、ボレアースは冷たい冬の空気を運ぶ北風、ノトスは晩夏と秋の嵐を運ぶ南風、ゼビュロスは春と初夏のそよ風を運ぶ西風。東風のエウロスは如何なる季節とも関連付られておらず唯一の上位アネモイである。更に下位のアネモイは邪悪で粗暴な精霊アネモイ・ティエライ(嵐の神)で、カイキアス(北東の風)・アペリオテス(南東の風)・スキロン(北西の風)・リプス(南西の風)。
 ローマ神話にも全く同じものがあり、ギリシャ神話とローマ神話を対比させてみよう。「アネモイ⇔ウェンティ」、北風は「ボレアース⇔アクィロー」、南風は「ノトス⇔アウステル」、東風は「エウロス⇔ウルトゥルヌス」、西風は「ゼビュロス⇔ファウォーニウス」、名前が代わるだけで受け持ちは同様である。
 
【平成28年2月7日→21日/26日】蝶の図鑑(No.019);ウラゴマダラシジミ No.037
ゼビュロスや西風吹かす碧い翅
ゼビュロス にしかぜふかす あおいはね
黒南風やウラゴに続けゼフ仲間(俳句)
(西風俳句)ゼビュロスやゼフの季節を告げる神 & ゼビュロスや大きな翅で露払い
 ゼビュロスは、春と初夏の微風を運ぶ西風である。アネモイの中で最も温和で、春の訪れを告げる豊穣の風として知られている。ゼフィルスの先頭を切って発生、最も大きく優雅に飛ぶ様からウラゴマダラシジミを付合した。
   ウラゴマダラシジミは、イボタノキ(モクセイ科)を食樹とするシジミチョウ科ミドリシジミ亜種の仲間で、雑木林や渓流沿いの雑木林等で発生する里山の蝶。年1回、6~7月に発生する。
 
 「南風」(はえ)/三夏には、梅雨の始めの黒い雨雲の下を吹く南風を「黒南風」(くろはえ)/仲夏・梅雨の最盛期の強い南風を「荒南風」(あらはえ)・梅雨明け後に吹く南風を「白南風」(しらはえ)/晩夏といい季語になっている。「北風」(きた)/三冬、「東風」(こち)/三春、と単独で季語および組合せで子季語もある。
 私が使いたい「西風」(ならい)は単独での季語はなく、子季語として「涅槃西風」(ねはんにし)は涅槃会前後に吹く北西季節風のなごり/仲春、「彼岸西風」(ひがんにし)は彼岸前後に吹く西風/仲春に、「高西風」(たかにし)は10月頃上空を急に強く吹く西風(地域によっては南西風や北西風も)/仲秋がある。
 
【平成28年2月8日→22日/26日】蝶の図鑑(No.020);アカシジミ No.038
クロリスやローマのニンフ玉の輿
クロリス
ローマのニンフ たまのこし
樫茂る梢や集いアカシジミ(俳句)
(西風俳句)
クロリスやローマのニンフ西風妻
 クローリス(クロリス)は、ゼビュロスに攫(さら)われ結婚したニンフ(下級女神/精霊、花嫁・新婦を意味するも一般に歌と踊りを好む若くて美しい女性の姿をしている)である。後に花と春の女神となりフローラと名前を変えた。フローラはウラミスジシジミに付合するつもりなので、旧名クローリスは発生の早いアカシジミに付合しましょう。
 アカシジミは、山麓部平地から山地の広葉落葉樹林に生息し、ブナ科のクヌギ・コナラ・カシワ・ミズナラ等を食樹として、年1回6~7月に発生するシジミチョウ科ミドリシジミ亜科のゼフィルスの仲間である。  
 
 「茜色の空」は、真っ赤に染まる夕焼け空。一方、夜明けの空を彩る朝焼けの空。アカシジミが一斉に梢上を飛び回るのは日が傾く「茜色の空」。青森県某所でのアカシジミの大量発生を一度でいいから眺めてみたい。
 
【平成28年2月8日/28日】蝶の図鑑(No.021);ウラナミアカシジミ  No.039
イーリスや虹の女神か西風妻
イーリス にじのめがみか ならいづま
絶滅や里山守れ樫落葉(俳句)
(西風俳句)
アイリスや西風の妻は仲夏花 & アイリスは仲夏の花や西風妻
 西風ゼビュロスは異なる物語の中で、幾人もの妻を持っていたと伝えられる。その中の一人、虹の女神イーリス(英語読みだとアイリス、日本語ではイリス)を、一輪で十分存在感があるアイリス→ウラナミアカシジミに付合した。なお、茜色の裏翅を持つ3種のゼフを一同にゼビュロスの妻に引き当てた。
   ウラナミアカシジミは、低山地のクヌギ林に生息し、年1回6~7月に発生し、夕方から日没にかけ活発に活動する。長野県では、準絶滅危惧種に指定している。
 
 古代ギリシャや古代ローマに俳句があったら・・・・アネモイは季語になっていたと信じたい。何故なら、アネモイは「風の神たち」であり、東西南北の各方向を司り、各々が様々な季節・天候に関連付られていた。正に俳句で詠まれる世界そのものですね。
【平成28年2月8日/29日】蝶の図鑑(No.022);ウラミスジシジミ No.040
フローラやニンフの吾妹西風妻
フローラ ニンフのわぎも ならいづま
夏蝶や吾妹の表裏(俳句)
(西風俳句)
フローラや春の女神か西風妻&フローラや西風の吾妹玉の輿
 ウラミスジシジミの学名に付く“Wagimo signatus” は、「吾妹」(わぎも)から付けられ「私の愛する人」という意味。ゼビュロスに見初められて(略奪)結婚、後に花と春の女神となったフローラは正に玉の輿。茜色の翅を開くと碧い羽根になるウラミスジシジミに付合させた。
 低地里山の開けた雑木林で生息する。ブナ科のクヌギ・コナラ・ミズナラ・カシワ等を食樹に、年1回6~8月に発生する。主に夕方、木々を渡るように梢上を比較的敏速に飛ぶ。  
 
 翅表は黒い地に輝くコバルトブルーの紋(未撮影)、翅裏は夕焼け色の地に銀色の筋が数条、日暮れに紫と橙色を点滅させながら梢周辺を活発に飛び回る。翅の表裏は反対色ゆえ、飛翔は混ぜ合わせる状態なので夕凪色に同化し撮影には強めのフラッシュで近距離撮影が必要になる。開翅サイズは14~21mmと小さい、ゼフィルスの中では一番小さいと感じていたが、まだまだ小さな仲間がいる。
 
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句数 16   24                                        
累計 16   40                                        
- 合掌 -